research
私たちの研究室では、脳の活動を非侵襲的に(脳を傷つけずに)測定できる脳波や脳磁図などの脳機能計測と、生成文法に代表される理論言語学を駆使して、人間が言葉を理解し、産出する脳のメカニズムを研究しています。
理論言語学が提唱してきた人間の言語についての様々な仮説を、脳科学の実験で実証することで、人間の脳言語を生み出し理解するための独自のメカニズムを明らかにしようとしています。教育や医療分野に関わる社会的意義の大きい研究です。
日本語では、「花子がリンゴを食べた」のように主語-目的語-動詞の語順(基本語順)の文も、「リンゴを花子が食べた」のように目的語-主語-動詞の語順(かき混ぜ語順)の文も使うことができます。言語学では、このような語順の変化を「かき混ぜ」と呼び、語順が変化すると文の構造がより複雑になると考えられています。また、脳科学では、複雑な文を理解する際に、文法の処理に関わるブローカ野と呼ばれる脳領域が活動することが知られていました。 日本語と中米グアテマラの少数言語である、カクチケル・マヤ語を対象に、「かき混ぜ」で脳活動がどのように変化するのか調べた結果、どちらの言語でもブローカ野が活動することが明らかになりました。この結果は、あらゆる人間の言語に共通する脳の言語処理メカニズムが存在することを示唆しています。
脳腫瘍患者では、健常者と異なる脳活動のパターンが観察されることが知られています。健常者と脳腫瘍患者が文を理解する際の脳活動を、fMRIを使って調べることで、脳には3種類の言語関連ネットワークが存在することを明らかにしました。 さらに、言語に障害を持つ脳腫瘍患者では、健常者と比べてこれらのネットワーク内部での情報伝達が失われていることも明らかにしました。
このほかにも、非常に弱い電気刺激によって、一時的に脳活動を変化させる経頭蓋電気刺激法を使った実験を進めています。これらの実験では言語に関わる脳活動を変化させることで、外国語の学習成績が促進され向上したり、言語障害が軽減されるか研究しています。 経頭蓋電気刺激法を使うと、脳活動の変化によって認知や行動がどのように変化するのか調べることができるため、脳波や脳磁図などの脳機能計測では分からない脳活動と認知・行動の因果関係を明らかにすることができます。